削られないための効率化|医療従事者の時間・タスク・スキルの整え方
効率化=気合いでのりきるではない
定時近くに帰るには仕事を早く終わらせたいですよね?
仕事を早く終わらせるとはいわゆる「作業の効率化」ということです。
「効率化」と聞くと、少し身構えてしまう人もいるかもしれません。
「もっと早く終わらせられるはずでしょ」「悩んでる時間がもったいない、とにかく手を動かして!」——効率化という言葉には、こういう号令のような響きがつきまといます。結局は「気合いで詰め込め」という根性論と、そう変わらないように聞こえるんですよね。
でも、この記事で話す効率化は、その真逆です。
医療従事者が辞めたいのにやめられないのはなぜか、「働き方を整える」というこの章の目的を前回の記事で紹介した際、私はがむしゃらに働いて消耗していた頃の話をしました。
(まだ見られていない方はこちらから→「辞めたいのに辞められない」医療従事者へ|消耗しない働き方の順番|かる~くブログ)
目標も持たずに目の前の仕事をこなし、気づけば外は真っ暗。あの働き方から抜け出せたのは、「もっと頑張ろう」と決めたからではありません。「どうすれば削られずに済むか」を考え始めたからでした。
効率化は、あなたを追い立てる道具ではないんです。あなたの時間と体力を、自分の手元に取り戻すための道具。この記事では、その視点から「時間・タスク・スキル」の3つを整えていきます。
「削られないための効率化」とは
世の中でいう効率化は、たいてい「同じ時間でもっと成果を出す」ことを指します。空いた時間にまた次の仕事を詰める、という発想ですね。これだと、効率化するほど働く量が増えていきます。医療従事者にとっては、むしろ消耗を加速させかねません。
私が大事にしたいのは、逆の効率化です。同じ仕事を、より少ない時間と負担で終わらせて、空いた分を「余白」にする。その余白は、次の仕事で埋めるためのものではありません。
定時で帰る、頭を休める、心をすり減らさない——そのための余白です。
理学療法士として付け加えると、効率化は身体と心の負荷を減らす手段でもあります。段取りが悪いまま動くと、無駄な動線、やり直し、焦りが積み重なって、体にも気持ちにも余計な負担がかかりますよね。逆に流れが整えば、同じ仕事でも疲れ方がまるで違う。効率化は「速さ」の話に見えて、じつは「消耗の少なさ」の話なんです。
だからこの章の効率化は、こう言い換えられます。「削られないための効率化」。この視点で、時間・タスク・スキルの3つを順に見ていきましょう。
時間——「急な仕事」を受け止める余白をつくる
1本目の柱は、時間の使い方です。
私たちの仕事は、人を相手にします。だから、どれだけ完璧に1日を組んでも、急変も、急な入院も、予定外の対応も入ってきます。「今日はこう動く」と時間をきっちり決めてしまうと、その予定が崩れた瞬間に、かえって焦りと消耗が生まれます。だから、時間割をびっしり埋める方向は、私たちには向きません。
そこで意識したいのは、逆の発想です。急な仕事が入る前提で、あらかじめ余白を空けておく。
やり方はシンプルです。まず、自分でコントロールできる仕事——ルーティンの書類、記録、定型の準備など——を洗い出して、これを1日の早いうちに片づけてしまう。締め切りに追われる前に、動かせるものを先に動かしておくイメージです。すると、日中に「予定外の対応が入っても大丈夫な枠」が空きます。
この余白は、時間のゆとりであると同時に、心のゆとりでもあります。「まだ手つかずの書類が山ほどある」状態で急な仕事が降ってくるのと、「やるべきことは前倒しで終わっている」状態で受けるのとでは、同じ急変でも消耗の深さがまるで違います。余白があるから、慌てずに目の前の患者さんに向き合える。
大事なのは、1日を固めることではなく、動かせる仕事を先に片づけて、動かせない仕事のための余白を残すこと。時間の主導権は、この「順番」から戻ってきます。
タスク——抱え込みを手放す
2本目の柱は、タスクの持ち方です。
医療従事者には、頼まれると断れない、自分がやったほうが早い、と抱え込んでしまう人がとても多いです。責任感の強さの裏返しなので、悪いことではありません。ただ、その抱え込みが、あなたを削る大きな原因になっているのも事実です。
人間関係の章では「対人の境界線」を扱いました。
(人間関係の章についてはこちらから→頑張り屋の医療従事者ほど人間関係で削られる理由|「断れない関係」の正体|かる~くブログ)
ここで引きたいのは、その業務量バージョン——「タスクの境界線」です。線の引き方を、3つに分けて見ていきます。
① 受ける前に、優先順位を考える
頼まれた瞬間に反射で「はい」と言わないこと。まず、その仕事が自分にとってどれくらいの比重になるかを、一呼吸おいて考えます。今の自分の手持ちと照らして、これは重くなりそうだと感じたら、断る勇気を持つ。断るのは相手を突き放すことではなく、引き受けたものを最後まで果たすための判断です。全部に「はい」と答えることが、責任感ではありません。
② 任せる
「自分がやったほうが早い」は、短期的には正しくても、長い目で見ると自分だけが消耗し続ける道です。後輩に渡す、チームで分ける。渡すことも仕事のうちですし、後輩にとっては経験の機会にもなります。
③ いらないところだけを、そっと削る
古くてまどろっこしい手順は、どの職場にもあります。ただ、それを真っ向から「無駄です」と省くのは要注意です。一見無駄に見えて、実は見えないリスクを防いでいる手順もありますし、その手順にこだわる人との関係に波が立つこともあります。だから狙うのは、自分がいつもやっていて中身を把握している仕事の中で、リスクにならない無駄だけを削ること。全体が見えているあなただからこそできる、安全な引き算です。
抱え込みは美徳ではありません。全部を自分で背負わないことが、結果的にあなたの手元に余白を残します。
スキル——「速く・正確に」は、消耗を減らす武器
3本目の柱は、スキルです。
スキルと聞くと「もっと勉強して、もっとできるようになれ」という話に感じて、また根性論か…と身構えるかもしれません。でもここで言うスキルは、上を目指す話ではないんです。毎日くり返している同じ作業を、より少ない力で終わらせるための技術のことです。
医療の仕事には、毎日のようにくり返すタスクがありますよね。記録、書類、申し送り、定型の説明。一つひとつは小さくても、毎回ゼロから考えて書いていると、地味に脳を削っていきます。「さて、今日はどう書こうか」と毎回悩む、あの小さな負荷の積み重ねです。
そこで効くのが、くり返す作業を「文章のパターン化」することです。よく書く記録の言い回し、よく使う説明の順番を、自分の中でパターンとして持っておく。毎回考えるのをやめて、パターンに沿って埋めるだけにする。そうすると、同じ作業でも頭の疲れ方がぐっと変わります。速くなるのは、その結果にすぎません。
もう一つ、パターンを持つと「正確さ」も上がります。毎回ゼロから組み立てると、抜け漏れや書き直しが起きやすい。でもパターンがあれば、必要な項目を自然に押さえられて、やり直しが減ります。やり直しほど、時間も気力も削るものはありません。速く・正確には、じつは「消耗を減らす」と同じ意味なんです。
スキルを磨くというと大げさですが、やることは「いつもの作業を、次からラクにする」だけ。今日の自分が少しパターンをつくっておくと、明日からの自分がずっと助かります。
私の場合
私がいつもやっている効率化は、大きく2つあります。1つは自分の作業を軽くすること。もう1つは、人に頼んで軽くすることです。
1つ目|記録を「キーワード化」しておく(スキルの効率化)
これは私が新人だった頃の話です。
当時、記録を書くためのパソコンは数が限られていました。書きたいと思ったときに限って空いていない。しかも下っ端なので、先輩が使い終わるのを待つうちに、自分の記録はどんどん後回しになっていきます。ようやくパソコンに向かえるのは、たいてい定時間際。
疲れきった頭で画面を前にして、「さて、何を書こう」とゼロから悩む——これで時間がかかって、また帰りが遅くなる。その繰り返しに、毎日のように削られていました。
どうにかできないかと調べて身に着けた方法が、記録を「キーワード化」しておくことでした。パソコンを待っている間や、患者さんと関わったすぐあとに、SOAPの型に沿って要点のキーワードだけ先にメモしておくんです。
S(主観)はこれ、O(客観)はこれ、と単語で置いておく。すると、いざパソコンに向かったとき、ゼロから考えずに済みます。あとは、置いておいたキーワードを接続詞でつなぐだけ。「何を書こう」で止まる時間が、ほとんど消えました。
やっていることは、前の項目で話した「文章のパターン化」そのものです。
SOAPという既にある型に、自分の観察をキーワードで乗せておくだけ。特別な技術はいりません。それでも、定時間際に頭を絞る消耗が減って、記録のために残業する日がぐっと少なくなりました。今思えば、あれが私にとっての「削られないための効率化」の、最初の一歩だったのだと思います。
2つ目|後輩に「任せる」(時間の効率化)
もう一つは、抱え込みを手放した経験です。
リハビリの計画書に患者情報を書く仕事——これは、新人なら誰もが通る定型の業務です。以前の私は、仕事が立て込んでいても、これを全部自分でやろうとしていました。頼むのが申し訳ない、自分でやったほうが早い、という気持ちが先に立っていたんです。
でも、あるとき考え方が変わりました。この計画書は、数をこなさないとスムーズに書けるようになりません。前の項目で話した「パターン化」も、まずは量を書いた人にしか身につきません。つまり、私が抱え込むことは、後輩から練習の機会を奪うことでもあったんです。
そこで、仕事が多いときは後輩に頼むようにしました。ただ、任せ方には気を配りました。決して上から振るのではなく、「ごめんね、手が回らなくて」と申し訳なさを添えて頼む。書いてもらったら、精一杯の感謝を伝える。そして、投げっぱなしにはしません。あとで必ず内容を確認して、リスクがないかを見ます。この確認まで含めて、「任せる」だと思っています。
やってみて分かったのは、任せることは「押しつけ」ではないということでした。頼み方と、その後のフォロー次第で、任せることは後輩の成長の場にもなる。そして私自身の手元にも、少しだけ余白が戻ってきました。
まとめ
時間・タスク・スキル。この3つに共通しているのは、どれも「もっと働くため」ではなく「削られないため」の工夫だということです。
急な仕事のために余白を空けておく。抱え込みを手放す。くり返す作業をパターンにする。派手さはありませんが、この小さな積み重ねが、あなたの一日から余計な消耗を少しずつ抜いていきます。
ただ、内側をどれだけ整えても、ふっと消えない不安が残ることがあります。「この働き方を、いつまで続けられるんだろう」。その不安の正体は、たいていお金です。
次の記事では、この章のもう一つの層——外側の土台である「お金」に触れていきます。内側で日々を軽くしながら、外側で土台を固める。その両輪がそろって初めて、「選べる自分」に近づいていきます。
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