辞めたいのは甘えじゃない|医療従事者が消耗する「環境要因」の正体と見分け方
「辞めたい」が頭から離れないあなたへ
「辞めたい」という言葉が、頭の中に住みついていませんか。
通勤の途中、ふとした瞬間、休日が終わる夜。
何度も浮かんでは、「でも」と打ち消して、また一日が始まる。
この記事は、そんなあなたのための章です。
先にひとつだけ、私が大切にしていることをお伝えさせてください。
環境は、逃げる先ではなく、選ぶものです。
そして、疲れきった頭で選んだ道は、同じ景色にたどり着きやすい——これは私自身の実感でもあります。
だからこのブログでは、体・心・人間関係・働き方、そして環境という5つの柱を用意しています。順番に読む必要はありません。ただ、もし今「まともに眠れていない」「心が限界かもしれない」と感じているなら、環境を選ぶ前に、そちらを先に手当てしてほしいのです。
体の章についてはこちら→「医療者はなぜ“まず体から”整えるべきなのか」|かる~くブログ
心の章についてはこちら→頑張りすぎる医療従事者ほど心が削れる理由|あなたが弱いんじゃない、構造の問題です|かる~くブログ
選ぶのは、回復したあなたであってほしいから。
その上でこの章は、「環境をどう見極めて、どう選ぶか」を一緒に考えていきます。
なぜ「環境」であなたが削られるのか
朝、ちゃんと眠れるようになった。
心の余裕も、少しずつ戻ってきた。
苦手なあの人とは、うまく距離を取れている。
仕事のやり方も工夫して、前より削られなくなった。
——それでも、しんどさが消えない。
もしそうなら、それはあなたの努力不足ではありません。
個人でできることをやり尽くしても残るしんどさ。それが「環境要因」です。
働く人の消耗について研究する分野では、「仕事の資源」という考え方があります。仕事の裁量度、上司や同僚のサポート、適切な評価、キャリアを伸ばせる機会——こうした資源が豊かな職場では人は消耗しにくく、乏しい職場では消耗しやすいことが報告されています。厚生労働省の労働経済の分析でも、JD-Rモデルが紹介されています①。
ここで注目してほしいのは、これらがすべて「組織の側にあるもの」だという点です。
- 裁量を持たせてもらえるか
- 困ったとき支えてくれる体制があるか
- 頑張りが正当に評価されるか
- この先の成長が描けるか
どれも、あなた一人の工夫では増やせません。慢性的な人員不足も、評価の仕組みも、組織の文化も同じです。畑の土が痩せていたら、どんなに良い種でも育ちにくい。あなたが弱いのではなく、土の問題ということがあるのです。
そしてもうひとつ、米国で、医師を除く医療従事者2万6千人あまりを2年間追いかけた研究があります。②燃え尽き状態にあった人のうち10.5%がその後働く量を減らしており、燃え尽きのなかった人(6.7%)を上回っていました。削られたまま同じ場所に立ち続けると、いつか「選ぶ」より先に「働けなくなる」が来てしまう。
だからこの章では、環境を「我慢するもの」でも「衝動的に飛び出すもの」でもなく、「見極めて、選ぶもの」として扱っていきます。
出典
①第2-(3)-8図 仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とワーク・エンゲイジメントについて|令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-|厚生労働省
②Dyrbye LN, et al. Characterization of Nonphysician Health Care Workers’ Burnout and Subsequent Changes in Work Effort. JAMA Netw Open. 2021;4(8):e2121435.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8379653
「変えられる環境」と「変えられない環境」の見分け方
環境要因がしんどさの正体だとわかったら、次にやることは「辞めるかどうか」の決断ではありません。その前に、ひとつ仕分けをします。
今のしんどさの原因は、「変えられる環境」か、「変えられない環境」か。
この見分けがつくと、進む道が2つに分かれます。変えられるなら、今の職場のまま環境を選び直す道。変えられないなら、職場ごと選び直す道。どちらも「選ぶ」であって、我慢でも逃げでもありません。
見分けるための問いは、3つだけです。

1つずつ解説していきます。
問い①:それは、誰が決めていることですか
勤務表の組み方なら、決めているのは主任かもしれません。評価制度なら法人本部、人員配置の基準なら診療報酬という制度そのものかもしれません。決めている場所が自分から遠いほど、変えるのは難しくなります。
問い②:伝える経路はありますか
面談、会議、提案の場。声を届ける道が一応でも存在するか。道があるのにまだ使っていないなら、それは「変えられない」ではなく「まだ試していない」です。道そのものがない、あるいは使うと不利益がある職場なら、話は変わってきます。
問い③:過去に、何かが変わったことはありますか
誰かの声で業務が改善された。小さくても変わった前例がある職場は、動く余地があります。何年も同じ不満が同じまま残り続けている職場は、構造が固定されているサインです。
3つの問いを通すと、だいたいの輪郭が見えてきます。
迷ったら、こんな目安もあります。
その業務に、何人が関わっていますか。
職場の全員が関わる業務のシステム(たとえば送迎の体制や勤務の仕組み)は、変えるのに大きな決定権が要ります。一方、自分だけ、あるいは少ない人数で回している仕事(たとえば自分の1日のスケジュールの組み方)は、あなたの手の中にあります。
関わる人数が多いほど、決定を下す場所は自分から遠くなる。シンプルですが、仕分けの精度がぐっと上がる目安です。
私も仕事に少し慣れたころ、「変えられないことを変えよう」としてしまったことがあります。

当時いた新規立ち上げの部署では、送迎もひとつの業務でした。ただ、朝の送迎は本来の出勤時間より30〜40分早く出発しないと間に合わないスケジュールになっていて、正直、憂鬱な業務でした。
どうにか朝早い送迎をなくせないか。せめてルートを変えて、少しでも遅く出られないか。
衝突しないように上司に提案してみたり、面談で思いきって伝えてみたり。できることは試しましたが——答えは、全てNOでした。「今の状態が最適です」という返答でした。
そのとき、「あぁ、この業務の決定権は自分にはないんだな」と諦めがつきました。全員が関わる業務のシステムは、私一人の声では動かない。そう見分けがついたのです。
それからの私は、仕分けてから力を使うようになりました。全員が関わる仕組みを一人で動かそうとするのはやめて、自分の裁量で変えられること——1日のスケジュールの組み立てや仕事の段取り——に気力を回す。同じ「変えたい」でも、届く場所に注ぐようになってから、消耗の仕方が明らかに変わりました。
そしてこの経験は、のちに私が環境そのものを選び直す——つまり転職という選択につながっていくのですが、それはまた、転職の考え方の所でお話しします。
ひとつだけ、例外を先に書いておきます。
ハラスメントがある、安全が守られない、心や体がすでに壊れかけている——この場合、仕分けは不要です。「整えてから」も「見極めてから」もいりません。離れることが最優先です。この章の順番は、そういう職場にまで我慢を求めるものではありません。
明日への一歩|職場を「棚卸し」してみる
ここまでを、一枚にまとめます。

明日への一歩は、紙とペンだけでできます。
今の職場で「しんどい」と感じることを、思いつくまま書き出してみてください。5個でも10個でもかまいません。書き出せたら、それぞれに3つの問いを当てて、「変えられそう」「変えられなさそう」「まだ試していない」の3つに印をつけてみる。
それだけで、漠然としていた「辞めたい」が、輪郭のある地図に変わりはじめます。
そして、この先の道はこう続きます。
☐「変えられそう」「まだ試していない」が多かった人へ——次の記事では、辞める前にできる環境の選び直し(伝え方・異動・働き方の調整)を扱います。
☐「変えられなさそう」が多かった人へ——職場ごと選び直す、つまり転職を”選ぶ”という話を、追い詰められてからではなく、落ち着いた頭でできるうちにしておきましょう。
どちらに進んでも、大丈夫です。
私は、環境は逃げる先ではなく、選ぶものだと思っています。
そのための地図を、ここから一緒に描いていきましょう。
人間関係にお悩みの方はこちら↓

noteでは、く~るかの体験やより「整える」ことについて発信しています。